脳を破壊するロボトミー手術について知っておきたいこと(狂った精神病治療)

1.ロボトミーとは、精神病を治すために脳の一部を破壊する治療

(via giphy)

ロボトミーは、1900年代前半に治療法が存在しなかった統合失調症やうつ病、パニック障害、強迫性障害などの精神病に対して行われた治療法です。頭がい骨に穴を開け、思考や判断、感情をつかさどる脳の前頭葉を切除します。

ロボトミーを受けた患者は感情を失くし、「ロボット」のようになることがあります。しかし、患者のロボットらしさがロボトミー(lobotomy)という名前の由来になったわけではありません。

ロボトミー手術で切除する前頭葉を、フロンタル・ローブ(frontal lobe)と英語で言い、そのローブという単語が由来になっています。

2.効果はある程度認められていた

【統合失調症の8歳少年の手術後ビフォー(左)、アフター(右)】

(via All That Is Interesting)

ロボトミー手術が最初に行われたのは、1880年代です。スイスの医師ゴットリープ氏が、幻聴を持つ患者と統合失調症の患者に対して、大脳皮質の一部切除を行ったことに始まります。

その手術の結果、患者は驚くほどおだやかな性格になり、精神病が完治しました。ただし後に手術の後遺症で、1人の患者が死に、もう一人は自殺しています。

その後の手術でも、確かに精神病の症状に改善や治癒が見られたという報告が数多くされています。

ロボトミーのアイディアが生まれたのは、鉄棒の貫通事故がきっかけ?

【事故にあったフィネアスと頭部を突き刺した鉄棒】

(via wikipedia)

脳の一部である前頭葉を破壊することが、人の性格を変える可能性があると認識されたのは、1848年に起きたフィネアス・ゲージの事件がきっかけだと言われています。

フィネアス・ゲージ(当時25歳)は、アメリカ・バーモント州の土木作業員の職長であり、鉄道建設のために火薬を使った爆破作業を行っていました。

作業の途中、不慮の爆破事故によって長さ1mの鉄棒が彼の頭部に突き刺さりました。下の写真のように、鉄棒は彼の顔の横側から入り、左目の後ろを通り抜け、頭頂に抜け出たのです。

【事故当時の損傷部の復元図】

(via wikimedia)

驚くべきことに、事故直後でも彼の意識ははっきりとしており、しゃべることも歩くことも出来ました。彼は事故後、荷車に乗って1.2km離れた病院にたどりつくまで、背筋を伸ばして座っていたといいます。

治療中、一度は意識不明状態に陥ったものの、1ヶ月後には階段の上り下りや、散歩もできるようになり、日常生活に支障をきたさない程度に回復しました。

しかし、彼の記憶や知性に変化は見られなかったものの、事故からまもなくして、性格に著しい変化が見られました。以前彼は、勤勉で責任感があり、抜け目がなく、エネルギッシュで誰からも好かれる存在でした。

しかし事故後、気まぐれで礼儀知らずで、ときにはきわめて冒涜的な言葉を口にして喜んだり、欲望を抑制できずに怒りっぽくなったりしたのです。

彼の精神はあまりにもはっきりと根本から変化したため、彼の友人・知人からは「もはや彼は、フィネアスではない」と言われたほどでした。

【事故後に撮影された写真】

(via wikimedia)

ちなみに彼は、事故から12年後の36歳のときに、事故による脳損傷が原因とされる痙攣を起こし亡くなっています。

3.手術方法:目頭から針を突き刺し、針で脳をかき回す

(via biancajchadda)

ロボトミーが開発された頃の手術は、頭蓋骨にドリルで小さな穴を開けた後、脳の狙った部位にメスを差し込んで、前頭葉を切除するという方法で行われていました。

【初期に使われていた頭蓋骨の穴あけ用ドリル:ハンドルを回すと針が出てくる】

しかし1945年になって経眼窩(けいがんか)術式が取り入れられ、より簡単で手軽にロボトミーが行えるようになりました。この術式は、2枚上の写真のようにアイスピック状の針を目の周囲に挿し込みます。

【実際に使われる器具】

(via Quora)

その際に、ハンマーを使ってアイスピックの押し込み具合を調整しながら、目的の前頭葉にまで到達させます。適切な位置に押し込んだら、円を描くようにアイスピックを回して、前頭葉を破壊します。

あとはアイスピックを引き抜いて終わりです。あまりにも簡単な手術であり、整った手術環境を必要とせず、経験の浅い医師でも出来たことから、世界中で広く普及しました。

また患者への負担も少なく、手術が最短10分ほどで終わるため、日帰り手術も可能だったのです。

4.成功例はたった数%だった

【ロボトミーを受けた患者:無気力・無感情などが見られる】

(via Memento Mutter)

ロボトミー手術は1970年代後半には廃れましたが、それまでの約40年間に世界中で少なくとも5万件以上行われました。

副作用なしの成功例はごくわずかで、患者のほとんどに一生元に戻せない重大な障害がもたらされました。たとえば知的障害であったり、てんかん発作や人格の変化、無気力、無感情などを一生涯抱えることになったのです。

手術後、責任ある仕事に戻れたのは数%で、多くの患者は日常生活に支障をきたし、周りの世話がない状態で生活していくことができなくなりました。

ある患者は、どんなことに対しても感情を持つことができなくなり、そのことに絶望して自殺を図り、ある患者は目は開いていたとしても、全く反応を示さなくなるなど、人間らしさが失われました。

5.危険な人間の排除など、メリットも存在した

【ロボトミー手術を受けた患者:左がビフォー、右がアフター。どちらも統合失調症の患者】

(via CVLT Nation)

ロボトミーは、患者の人間性を奪い、無能にするデメリットばかりの治療法ですが、少なからずメリットも存在しました。そのため、ロボトミーを支持する学者もいたのです。

日本の精神科医であり、ロボトミー肯定派であった廣瀬 貞雄(ひろせ さだお)氏によれば、「我々の今日までの現実的な経験としては、ロボトミーは臨床的に有用なすてがたい利器であり、従来の療法ではどうしても病状の好転を来たすことができず、社会的にも危険のあったものがロボトミーによって社会的適応性を回復し、あるいは看護上にも色々困難のあったものが看護し易くなるというような場合をしばしば経験している

また、「精神病院内に、はなはだしく悩み、また狂暴な患者が入れられているということは、戦争や犯罪やアルコール中毒の惨害以上に一般社会の良心にとって大きな汚点であるとし、このような患者がロボトミーで救われることを肯定する議論もある」と述べています。

広瀬氏はロボトミー手術を受けたあとに、国立大学の教授、会社経営者、開業医、技師など社会的重要な立場で活躍した人物が数多くいることを挙げています。

6.ノーベル賞を受賞している

【ノーベル賞を受賞したエガス・モニス】

(via wikimedia)

ロボトミーが精神医学における重大な過ちであったことは言うまでもありませんが、1930年代当時は非常に優れた手法であるとして多くの支持を得ていました。

1949年、ロボトミーを考案し、その外科手術を成功させたエガス・モニス氏らは、ノーベル賞を受賞しました。その後、長期的な経過観察が行われることなく、世界中で合法的にロボトミー手術が行われるようになりました。

ロボトミー手術の犠牲となった患者やその家族は、現在でもエガス・モニスのノーベル賞取り消しを求めて運動を行っています。

またエガス・モニスは晩年、彼が執刀した患者に銃撃され、セキズイを損傷し、車椅子生活を余儀なくされました。

7.精神病以外にも、ロボトミー手術が行われていた

(via Pexels)

初期は精神病患者のみに行われていたロボトミー手術ですが、その熱狂的な流行により、慢性的な頭痛や発達障害、問題行動を起こす子供や同性愛者に対しても行われるようになりました。

日帰りで簡単に行える経眼窩術式が確立されたことで、親や友達が積極的に何らかの問題を持つ子供や友達を連れてくるようになったのです。

ある情報源によれば、統合失調症が疑われる5歳以下の子供に対しても、ロボトミー手術は行われていたと言います。しかし、5歳以下の子供が統合失調症であると判断するのは難しく、そのケースの多くが誤診だったようです。

8.日本では、ロボトミーによる殺人事件がおきている

(via thefederalist)

ロボトミーを受けたのは欧米人だけではありません。日本でも1930年代後半から積極的に精神病の治療法として行われ、数千~数万人が手術を受けたとされています。

現在では、治療を行う前に医師が患者に対して十分な説明をし、合意を得てから治療に当たることが一般的ですが、当時は違いました。患者に一切知らされることなく、ロボトミー手術が行われることも少なくなかったのです。

このことが、1979年のロボトミー殺人事件の発端となりました。事件の犯人は元スポーツライターの桜庭章司(当時50歳)で、彼はある日、ささいないざこざを起こして警察に逮捕されました。

逮捕後、桜庭は精神鑑定を受けてサイコパスと認定され、強制的に精神病院へ入院させられることになりました。しばらくしたある日のこと、医師は肝臓検査をするという名目で、彼に全身麻酔をかけました。

彼が目を覚ますと、今までとは何かが違うと感じしました。そう、このときにロボトミー手術が行われていたのです。

それから彼は退院して、スポーツライターの仕事に戻りましたが、ロボトミーによって感受性が低くなり、何をやっても意欲が出てこないなど、ロボトミーの後遺症に悩まされることになります。

彼は仕事を続けることが出来ず、経済的に立ち行かなくなり強盗事件を起こしています。出所後も職を転々としましたが、どれも長続きせず、ロボトミー手術を無断で執刀した医師に対する恨みを募らせていきました。

そして1979年9月のこと、桜庭は執刀医の殺害を決心し、自宅に押し入ったのです。医師の母親と妻を拘束し、本人の帰宅を待っていましたが、遅くなっても帰宅しなかったことから、2人を殺害し金品を奪って逃走しました。

彼はその後まもなく、銃刀法違反の現行犯で逮捕され、殺人事件の罪を負うことになりました。1996年には無期懲役が確定しています。

9.現在は行われていない


1950年以降、統合失調症に劇的な効果を示すクロルプロマジンが発見され、うつ病などに効果がある抗精神病薬などが発明されたことで、徐々にロボトミー手術は下火になっていきました。

またロボトミー手術によって重大な副作用が起こりえること、そして人権意識の高まりに伴って、1975年までには完全に過去のものとなったのです。

参考リンク:livescienceonodekitawikipedia

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