獲物を洗脳・ゾンビ化してしまう恐ろしいハエ
自然界には多様な生物が存在し、それらは生存と繁殖をかけて様々な生存戦略を有している。その中でもアリ断頭バエ(Pseudacteon属)は、際立って恐ろしい繁殖戦略を持つことが知られている。
(via wikipedia)
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このハエは、たった数mmしかない。家の中に現れるイエバエよりもずっと小さいが、そのサイズからは想像できないことをやってのける。
(via annualreviews)
このハエのメスは、獲物となる特定のアリに卵を産み付けるのだ。断頭バエは70種以上が知られており、それぞれが特定のアリを産卵対象にしている。
メスは外を歩き回る働きアリを見つけると、肩関節に卵を1個注入する。それが終わると、次のターゲットを探す。一匹のメスが持つ卵は100~300個あるので、たった1匹で何百匹ものアリが犠牲になる。
(via wikimedia)
そしてアリの中に仕込まれた卵は、数日すると孵る。その幼虫はアリの頭に移動し、最初にアゴの大きな筋肉を、次に神経組織、血リンパなどをむさぼり食い成長していく。
最終的に幼虫は脳まで食し、サナギになる準備ができると、アリへの洗脳を始める。洗脳が始まる時間は、幼虫がサナギになる24時間前ごろだ。
洗脳されたアリは自らの巣を飛び出してしまう。そしてアリはゾンビのようにさまよい歩き、断頭バエが安全に外へ出られるよう湿っぽく暑くなりすぎない場所にとどまり、死を迎えるのだ。
(via wikimedia)
普通なら、仲間のアリに菌や病原体などが感染しないよう乾燥した場所で死ぬことが多いのだ。このウジ虫がどうやってアリを洗脳しているのかは明らかになっていないが、何らかの化学物質を放出している可能性が高いとされている。
(via Sanford D. Porter)
こうして寄生したアリが死ぬと、幼虫は特殊な酵素を吐き出し、頭と背中の膜組織を溶かして頭部を切断してしまう。これが断頭バエとよばれるゆえんである。幼虫は頭内にある全ての肉を食い尽くすとサナギになり、数週間後に切断された頭の中で成虫へと変態する。
(via Sanford D. Porter)
成虫になったハエは、アリの口から抜け出して空へ飛び立つ。だが成虫の寿命はたった3~5日である。幼虫の寿命が1ヶ月以上であることに比べると非常に短い。成虫はその間に交尾をし、再びアリをゾンビ化させるサイクルを繰り返す。
(via Sanford D. Porter)
その性質を利用してヒアリ駆除が行われている
(via wikipedia)
殺人アリとも呼ばれるヒアリは、お尻の部分に毒針を持っており、刺されると赤くはれたり、かゆみや痛みが出たり、最悪の場合にはアナフィラキシーショックで死ぬことがある。それに加え、大量の土を掘って巣を作る習性から、道路や歩道の舗装を破壊したり、農作物の収量を下げたり、樹木を弱らせたりする。
(via wikimedia)
アメリカでは、20世紀ごろに南米から持ち込まれたヒアリが爆発的に繁殖し、各地で壊滅的な被害を与えている。ヒアリによる建物や土地、農作物の損害など被害額は、毎年2500億円に上っており、治療費や駆除費用も含めると年間5000億円近くに上る。
(via wikimedia)
そしてこのヒアリを駆除するために、1999年から人工的にリリースされているのが断頭バエなのだ。断頭バエの中には、このヒアリしか寄生しない種がいるので、それを選択的に放出している。そのため他の生物を脅威にさらすことはない。
現在アメリカ南部を中心に大量の断頭バエが野生に放たれているが、実際に駆除効果があるかを確定するまでにはいたっておらず、今後数十年の期間を通して調査していく必要があるという。
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