汚くて危険。歴史上最悪の仕事・7種

2019年7月12日

現在はほとんど消滅した歴史上の最悪な仕事をご紹介していこう。

1.吸血ヒルの収集業

【当時のヒル回収用陶器バケツ】

(via wikipedia)

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18~19世紀頃、ヨーロッパでは吸血ヒルのブームが起きていた。当時は体の血を抜くことが健康的で、あらゆる病気に効くと信じられていたから、人の血を吸うヒルが重宝されたのだ。

【血を抜く治療(しゃ血)を受けている患者の写真】

(via wikimedia)

医師が治療用のヒルを入手するのは簡単ではなかったため、ヒル収集を行う専門職が誕生した。だがその収集方法は、非常に危険で胸が悪くなるものだった。

ヒル収集家はよどんだ沼地に素足で入り、自分の脚をエサにヒルをおびき寄せたのである。そして脚を這うヒルが血を吸い終わった後、それを手でつかみ生きたままバケツに入れた。

【ヒル収集の模様】

(via Science Museum)

ヒルは体重の10倍近く血液を吸うため、大量のヒルに吸血されれば失血死する危険性があった。しかもヒルに吸われた患部は、すぐに止血されず、20分以上は出血し続けた。また吸血された部位から感染症にかかるリスクも存在する。これほど危険な仕事であったにもかかわらず、十分な給料は払われていなかった。

2.フラー(ウール製造)

【小便で羊毛を洗う仕事】

(via OMGHolySmoke)

ヒツジの毛は数千年前から紡がれ続け、様々な衣服や敷物が作られてきた。だが羊毛はそのまま織り合わせると、網目が大きくなり、簡単にほつれたり、穴が開いたりしてしまう。この問題は、羊毛に付いた汚れや脂を落とし、それを圧縮する縮充工程で解決できる。

そしてこの縮充工程を担当する人たちは、フラーと呼ばれた。現代の縮充は、石けん水などのアルカリ性溶液を使って処理されているが、古代ローマ時代は不衛生きわまりないものを使用していた。

(via Isle of Wight History Centre)

それは尿であった。尿はアルカリ性であり、かつ洗浄作用のあるアンモニウム塩を含んでいたため、縮充には最適だった。

フラーの仕事は、ヒザが浸かるくらいまで人間の尿が入ったタライの上で羊毛を何度も踏み続けることであった。不潔な仕事だったので、主に奴隷がさせられていた。

素足で小便の中に入ってるだけでも気持ち悪いが、フラーはその工程に使う小便も集めなければならなかった。彼らは公衆トイレや個人の家のトイレに行って、必死に小便をかき集めていたのだ。

3.宮内官(君主のうんこ世話係)

【当時の携帯用トイレ】

(via wikipedia)

14世紀頃のイングランドで生まれた仕事であり、君主の排便を手伝うことが宮内官の役割だった。当時の国王は、上記のようなポータブルトイレで用を足していた。そのため宮内官は国王に常時付き従い、国王が便意を催したらすぐにこのトイレとタオル、水などの排便道具を用意し、国王の排せつをアシストした。

排便が終わったら、国王のお尻をきれいにふき、その便を収集して検査し、国王の健康を管理した。もし健康上の問題があれば、医師と連絡を取り合った。

【イングランド王・ヘンリー8世(1491年~1547年)の頃に誕生した仕事】

(via wikipedia)

汚らわしい仕事であったが、ヨーロッパ貴族の間でこの職業は特権的な地位を持つことになった。国王に常に付き従うということは、国王からそれだけの信頼を得て、王室の機密を共有するからだ。

【チャールズ1世の宮内官】

(via wikipedia)

時代を経るとともに、宮内官は財政の管理など王室の中で重要な役割を果たすようになっていった。1762年に首相を務めたジョン・ステュアートも、宮内官の一人であった。

4.ラットキャッチャー(ネズミ駆除)

(via HyperActivz)

ヨーロッパにおいてネズミは「悪魔の使い」とも呼ばれ、黒死病をもたらす恐ろしい害獣であった。13世紀にはドブネズミを感染源とした黒死病が蔓延し、ヨーロッパ人口の30~60%が死亡したと見積もられている(3.5億~4.5億人)。

ラットキャッチャーは、感染病の原因となるネズミを町から駆除する仕事だった。しかし現代のように駆除の薬剤や技術が発展していなかったため、素手で捕まえることが多く、非常に危険な仕事だった。

【ラットキャッチャー:素手のほか、犬や罠も使用】

(via wikipedia)

ラットキャッチャーは、ネズミが好むハーブのアニスやタイムの油を衣服や手に塗ってネズミをおびき寄せ、素手で捕獲していた。この方法がいかに危険であるかは、簡単に想像できるだろう。

捕まえようとすれば、ネズミは容赦なく噛んでくる。噛まれれば黒死病などの危険な感染症で死亡するリスクが高かった。それに加え、駆除でもらえるお金は少なかったから、とても割に合わない仕事だった。

5. 19世紀頃のマッチ製造業者

【マッチ工場で働く少女たち】

(via wikipedia)

マッチは今でこそ使用される機会は減ったが、ライターが普及するまで火をおこすのに必需品だった。イギリスでは大量生産のために19世紀ごろからマッチ工場が建設された。

マッチ製造は大部分が手作業であり、特別な訓練を必要としない単純な仕事であった。そのため若い女性や子どもが低賃金で雇われ、1日12~16時間働かされた。

そしてこの仕事は、見るも恐ろしい職業病をもたらした。アゴが崩壊するリン性壊死である。

【リン性壊死患者イメージ】

(via wikimedia)

現在、マッチの頭薬には安全な赤リンが使われているが、当時は毒性の高い黄リンが用いられていた。マッチに頭薬を付ける工程で蒸発した黄リンは、長期的に吸入することでリン性壊死を引き起こす。

リン性壊死は、最初に激しい歯痛と歯茎のはれが起こり、そのうちに膿ができて口内に穴が開き、歯が失われる。さらに症状が進むとアゴの骨が壊死して体から脱落する。

【リン性壊死で崩壊した下アゴの骨】

(via The Plummy Brummy)

特に下アゴが影響を受けやすく、その壊死した部位は暗闇で緑色に光った。骨が腐っていく過程は、ひどい臭いを放ち、とてつもない痛みだった。最終的には、脳の損傷、臓器不全により死亡することもあった。

6.古代の皮なめし職人

【なめした皮】

(via wikipedia)

皮なめしは、動物の皮に柔軟性と耐久性を与える処理で、革製品をつくるのに必須な工程である。この工程を抜くと、皮が固くなったり、腐ったりしてしまう。

皮なめしは紀元前2200年前から行われ、現在でもすべての革製品がこの工程を経ている。だがそれを行う皮なめし職人はかつて差別され、その住まいは人里離れた土地に追いやられていた。その原因は、皮なめしが非常に汚く・臭い仕事だったからだ。

【なめし皮職人】

(via wikipedia)

動物の死体を扱うという汚さだけでなく、なめし工程でかつて尿と大便を使って処理していたから、それがひどい悪臭の元になった。

なめし工場に持ち込まれる皮は、血糊と泥、肉塊がついてひどい臭いを放つ。なめし職人はその皮を水にひたして洗い、付着した脂肪や肉、汚れを除去する。次に毛を取り除くのだが、このときに毛をはがれやすくするため、尿などのアルカリ性溶液を用いた。

毛をはがしたら今度は大便、あるいは動物の脳が入った水で皮を叩いて柔らかくした。大便は人間のものも用いられたが、犬とハトが多かった。大便や脳が発酵すると、細菌によってコラーゲンを分解する酵素が産み出され、本当に皮が柔らかくなったのである。

【発展途上国のなめし皮工場:尿や便は使わないが臭いは強烈。有害なクロムを使用する】

(via PxHere)

7.ゴーンファーマー(うんこ回収業)

(via The Dictionary of Victorian London)

現在は多くの地域で下水道が通っており、糞便の処理に困ることは無いし、たとえ通って無くてもバキュームカーがあるので、汚水槽にたまった糞便は容易に回収できる。

しかし中世ヨーロッパにおいては、そのような設備がなかったため、糞便を家の窓から投げ捨てたり、家の床の地面につながる穴から垂れ流したりしていた。人口が密集するにつれ、糞便がいたるところにあふれるようになり都市の衛生環境は悪化していった。

それを解決するために生まれたのが、ゴーンファーマーという職業である。ゴーンファーマーは、人糞を回収するのが仕事であり、主に汚物だめから夜中にし尿を回収し、それを都市の外や町外れ、公認のはきだめに運んだ。夜中にしか働けなかったのは、この仕事は不潔で、大衆に不快感を起こさせるとされたからだ。

(via Gong Farmer)

忌み嫌われていたゴーンファーマーであったが、給料面では恵まれていた。たとえばエリザベス1世の時代には、1日6ペンスの銀貨が支払われていて、十分に良い暮らしを送ることができた。

だが大小便に満ちた汚物だめの中で、膝あるいは腰、首まで人糞に浸かりながら、凄まじい悪臭に耐えてくみ取らなければならなかったのだ。人糞の中には、幼児の遺体が捨てられていることもあったという。

またゴーンファーマーは差別の対象であって、町はずれの特定の場所にしか住むことができなかった。

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雑学

Posted by uti